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Complex
第3章 変化
駅を出て、車の鍵を探そうと鞄を漁っていると、ぐしゃりと折り曲がったメモが目につく。
綾瀬の、連絡先。

時間があれば連絡してと言われた。

駐車場と反対の道に行けば、そこには綾瀬の店があるはずだ。
あの穏やかな笑みを浮かべる人に今日の出来事を話したらどうなるのだろうか。

一瞬足をそちらに向きかけるも。
なぜか圭太の泣きそうな声が耳に残る。

友香はメモを手の中で丸めると、駐車場へと歩みを進めた。

車に乗ると、連絡先を登録して、メールを打つ。

『こんばんは、小林友香です。
連絡遅くなってごめんなさい。
今日はもう遅いので、また連絡しますね』

他人行儀にならないように、それでも親し過ぎないように、考え過ぎた文面は色気も何もない。

けれど、これが今の私なのだ。
圭太を受け止めることも、綾瀬に甘えることも。
素直にできない。

昔の私なら、それこそ二人を天秤にかけながら日々を過ごした。
その自信。

若さだけではない。
女としての努力。
何年もほったらかしにしてきた結果が、今の臆病な自分だ。

圭太の言葉が蘇る。

結婚。

その言葉を耳にすると、平気な振りをしていても焦燥感に駆られる。

「あー、もーっ」

数時間前の圭太のようにハンドルに顔を埋める。
足をばたつかせていた圭太。
きっと、地団駄を踏んで、今の自分から逃れたいと切に願ったのだ。

なぜか、涙が溢れそうになる。

友香はエンジンをかけ窓を開けると、すべての気持ちを吹き消すかのようにアクセルを踏んだ。
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