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純の恋人
第10章 国重一の後悔
今さら何を言うかと思えば、看護師は首を横に振り、辺りを気にしながら口を開く。
「そうじゃなくて、事故の後の記憶も、全部抜けちゃったんです。多分国重さんの事も、覚えていないと思います」
「……は?」
「しかも、医院長の息子さんが婚約者だとか、聞いた事もない話をどこかで刷り込まれているんです。私にはどうにも出来ないけれど……この病院、なにかおかしいです。国重さんは警察なんでしょう? なんとかしてください、私、怖くて……」
青ざめる看護師を宥めながら、俺は混乱しそうな頭を整理する。記憶をまた失った? 事故の後、あいつは断片的にだが、記憶を取り戻していた。俺といるとなぜか記憶が戻ると、それこそ名の通り純粋な目で話していたのに、その時間も消えてしまったのか。
俺が守れていたら――いや、そもそも俺が、初めて会ったあの時話を聞いてやれば、あいつは記憶を何度も失う事なんかなかったはずだ。また一つ俺のせいで生まれた不幸に罪悪感を覚えながら、俺は足を進めた。
あいつが入院している個室に、名札はない。常に開かれた大部屋と違い、閉じた個室を覗くのはさすがに不可能だ。あの看護師が俺を頼り打ち明けてくれなければ、見つけ出すのは難しかっただろう。