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純の恋人
第10章 国重一の後悔
この扉を開けば、あいつはどんな顔で俺を迎えるのだろうか。俺は昔から初対面の女には怖がられるから、あいつもそうかもしれない。
そういえば吉行と一緒に病院へ来た時も、あいつは終始重い顔をしていた。世間話をしたり、相棒だなんて呼ばれたりしたのは、何がきっかけだったのか。いつの間にかあいつが心を開いただけで、俺が何かした覚えはない。
だからこそ――もう一度信頼を得る方法が分からない。救ってやるなんて言いながら、俺はあいつの厚意に大分甘えていたんだろう。そう考えると、扉がとても重く感じた。
「入るぞ」
顔を見れば、今までみたいにまた記憶を取り戻さないかと期待して中へ入る。だが、ベッドから俺を見上げたこいつの瞳には、強い疑いの色が宿っていた。
「……どなたですか?」
「俺だ、国重だ。覚えてないのか」
「申し訳ありません、私、先日事故に遭って以来、記憶の混濁が激しいんです。特に高校以降の事は、何も覚えていなくて」
期待は簡単に打ち砕かれた。俺といると記憶を思い出すなんて、ただの偶然だったんだ。他人行儀な姿に、全身の力が抜けそうだった。