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純の恋人
第10章 国重一の後悔
「……あの、でも私、そんなに悲観はしていないんです。私には、支えてくれる人がいますから」
どこの馬の骨かも分からない俺を、こいつは椅子へ座るよう促す。だが、座ってしまえば立ち上がれなくなる気がして、俺は窓に寄りかかる。するといつの間にか疑惑の目は、俺越しに遠いどこかを見つめていた。
「……どうした?」
「あ、いえ、なんでもありません」
俺が声を掛ければ、目を逸らされてしまう。そういえば、以前も似たようなやりとりをした気がする。あの時の俺は、思い返せば酷い人間だった。
こいつは俺のせいで被害者になったのに、俺はあの日に自業自得だと、また暴言を吐いてしまった。一秒でも早く犯人を捕まえたいのに、こちらは信用されていない。焦りで、同じ過ちを繰り返してしまった。
「支えってのは、誰だ?」
「はい、私の恋人――晴久さんです。私が記憶を失っても愛してくれるって言ってくださって……父も、もう年内に結婚してはどうかと勧めてくださっているんです」
今までなら、父親の話をすればこいつは苦い顔をしたはずだ。だが今は特に諍いの種は見つからず、まるで仲が良さそうに語っていた。