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純の恋人
第10章 国重一の後悔
大体、病院の息子と交際しているなんて話、全くの嘘だ。記憶を失ったのをいい事に、今度は父親側が記憶の改竄を狙ったんだろう。
「……そうか。姉とは、顔を合わせたのか?」
「いえ、姉は……私の事なんて、気にも掛けていませんから」
要するに、真実を知る吉川真子は、邪魔だから排除した訳か。どこか妬みを感じるような言い方。姉が現れて真実を暴露しても、今のこいつは父親の言い分を信じるだろう。
だが、妙だ。それをするなら、なぜ初めに記憶を失った時に実行しなかったのか。一度目に記憶を失った時、父親は今までと同じ対応を取っていた。条件を付けたとはいえ、記憶に繋がるマスカレードの連中の面会も許している。態度から察すれば、傀儡化させようというよりは、見放したと言った方が近い。
だとすれば、方向転換させたのは……嘘をついて、得をする人間だ。そしてそれは、話を聞く限り一人しかいない。
「土居 晴久っていうのは、どういう人間なんだ?」
婚約者と偽り、まんまと恋人の肩書きを手に入れた男。医院長の息子、晴久。証拠はないが、犯人はこいつしか考えられない。