この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
純の恋人
第10章 国重一の後悔
初めに、助けを求める手を振り払ったのは俺だ。だから俺は、もう二度と泣いている純を見逃す訳にはいかない。
「私は、幸せです。だってあんなに、私を好きでいてくれる人がいるんですから」
「もし、俺も恋人だと言い出したらどうする?」
「――え?」
思わぬ質問だったんだろう、純は目を見開き、言葉を失う。長い沈黙が辺りの空気を冷やし、無邪気な笑みを奪った。
「そんなはずないです。国重さんは、そんな――」
するとちょうどその時、ノック音が響いて扉が開く。入ってきたのは、ピンク色の髪をした若い男、イドとかいう偽名で純に近付いていた人間だった。
「あれ、純ちゃん面会中だった? この人は誰?」
何度か顔を合わせたはずなのに、こいつはまるで初対面のような言い草をする。そして純はこの男に、満面の笑みを浮かべた。
「おかえりなさい、晴久さん。大学はどうしたんですか? 早いですね」
今、間違いなく純はこいつを『晴久』と呼んだ。この男が、医院長の息子? だとすれば、犯人はずっと前から、純に近付いていたのか。
「この男が、婚約者なのか?」