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純の恋人
第10章 国重一の後悔
 
 初めに、助けを求める手を振り払ったのは俺だ。だから俺は、もう二度と泣いている純を見逃す訳にはいかない。

「私は、幸せです。だってあんなに、私を好きでいてくれる人がいるんですから」

「もし、俺も恋人だと言い出したらどうする?」

「――え?」

 思わぬ質問だったんだろう、純は目を見開き、言葉を失う。長い沈黙が辺りの空気を冷やし、無邪気な笑みを奪った。

「そんなはずないです。国重さんは、そんな――」

 するとちょうどその時、ノック音が響いて扉が開く。入ってきたのは、ピンク色の髪をした若い男、イドとかいう偽名で純に近付いていた人間だった。

「あれ、純ちゃん面会中だった? この人は誰?」

 何度か顔を合わせたはずなのに、こいつはまるで初対面のような言い草をする。そして純はこの男に、満面の笑みを浮かべた。

「おかえりなさい、晴久さん。大学はどうしたんですか? 早いですね」

 今、間違いなく純はこいつを『晴久』と呼んだ。この男が、医院長の息子? だとすれば、犯人はずっと前から、純に近付いていたのか。

「この男が、婚約者なのか?」
 
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