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純の恋人
第10章 国重一の後悔
「ほう、自分の過去を知る人間に対して、随分な言い草だな。なあ、普通は過去を知る人間が来たら、どんな知り合いなのかくらいは確認しないか? この前も、今日も、お前は一度も俺が何者か訊ねてこないが、それはなぜだ?」
純はぴくりと肩を震わせ、押し黙る。俺はさらに、そんな純へ追い討ちをかけた。
「それは、俺が何者か知っているから、じゃないのか? よくよく考えてみたら、短期間で二度も記憶を失うなんて、そんな都合のいい話があるはずないんだ。お前は全てを忘れた振りをして、土居晴久の――ストーカーと轢き逃げ犯の言いなりになっている。そう考えた方が自然だ」
「ち……違います! 私は、本当に何も覚えていないんです! 確かにこんな突飛な話、信じがたいかもしれませんが、私は」
「確かに、お前が忘れてしまえば事件は全てなかった事になる。だが、お前は一生自分一人で全てを抱える事になるんだぞ。なぜ、なんの罪もないお前が、汚い裏社会の犠牲にならなきゃならないんだ。俺はそんな、正直者が馬鹿を見るような世の中はごめんだ」
「……証拠は、あるんですか」