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純の恋人
第10章 国重一の後悔
純は拳を握り、俺を睨みつける。動揺を怒りで誤魔化そうとしているのが丸分かりだ。
「私が全てを覚えているって証拠もないのに、言いがかりをつけないでください!」
「証拠? じゃあ一つ訊ねるぞ。お前、俺の名前を答えられるか?」
「名前って……国重さんは国重さんでしょう。国重 一さんです。自分から名乗ったんだから、私が知っていてもおかしくはないでしょう?」
「確かに、名乗ったな。『俺だ、国重だ。覚えてないのか』ってな」
「ええ、覚えています。私は――」
「なら俺は、自分の名前が『一』だなんて、一言も話していないな。それなのにどうして、お前はフルネームを答えられたんだ?」
反論しようとした純は絶句し、俯く。言い逃れはさせない、いや、どのみち出来っこない。どう足掻こうが、こいつは全て、覚えているんだから。
「……どうして、今さら私を助けようとするんですか」
そして、とうとう観念した純が口にした言葉は、俺の胸に刺さった。
「あの時は振り払ったのに、なんで今さら動くんですか。こうして心配してくれるなら、どうして初めから助けてくれなかったんですか……っ!」