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純の恋人
第10章 国重一の後悔
 
「それは……」

「もう、全部いいんです。私が全部忘れていれば、皆大人しいんですから。晴久さんだって、私が男の人と話さなければ優しいですし、私さえ我慢出来れば――」

「これから長い人生、ずっと我慢して、それで生きられると思ってるのか? 土居晴久が、もうお前に暴力を振るわないと思うのか?」

「だって、そうするしかないじゃないですか! 私は……一人でなんとかするしかないんです! だったら、死ぬか従うかしかないじゃないですか……っ!!」

 こいつを意固地にしているのは、俺自身の言動だ。一度見捨てた人間が、もう一度信頼を得ようだなんて傲慢なのかもしれない。傷付けた過去を隠し、初対面の振りをして近付いた俺は、土居とさして変わらない卑怯者なのだから。

「……すまないと思っている。『あの時』は大きな事件があって、苛ついていたんだ。ろくに話も聞かないで、騒いでいるお前は自業自得の馬鹿者だと決め付けて振る舞った。俺のやった事は、俺が一番嫌っていた奴らと同じだった」

 被害者の声を聞かない警察を嫌いながら、俺は勝手な決めつけで被害者を見捨てた。しかもそれが抜けず、何度も純に辛く当たった。
 
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