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純の恋人
第10章 国重一の後悔
「……そんなに頑張ってる姿を見ていたのに、私、過去だけで……こんなの、間違ってる」
「頭、痛むのか? まさか土居に殴られたんじゃないだろうな。具合が悪いなら、別の病院に……」
すると純は立ち上がり、退職届を勢い良く破る。親の仇のように粉々にすると床に散らし、俺を見据えた。
「辞めるなんて、私が許しません。過去がどうあれ、病院で会ったその時から、国重さんは私をたくさん助けてくれました。プレッシャーも掛けられたかもしれませんが、そうしなければ、私はいつまでもぬるま湯に浸かっていたでしょう。今まで積み重ねてきたものを無視して、過去だけを責め続けるなんて、そんなの駄目です」
さっきまで震えていたのに、いつの間にかこいつの瞳は揺るぎなく変わっている。そういえば、前も同じような事があった。俺みたいな人間のせいで混乱はしても、本質は強い女なんだろう。
「……国重さん、私は別に、強くなんかないですよ」
「っ、なんで分かっ……」
「分かりますよ、時間は短くても、一緒にいたんですから。私……すぐ躓いて、間違って、過去に囚われて馬鹿をやらかした人間です。私が強ければ、こんな事にはならなかったんです」