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純の恋人
第3章 刑事 国重一
 
 イドさんは目を丸くした後、深い安堵の溜め息を漏らす。そして悪戯めいた笑みを浮かべると、首を傾げ甘えた声を上げた。

「してもいいって、何を? 記憶戻った記念に、ケーキでも食べようか?」

 私の気持ちを分かっていてはぐらかすんだから、イドさんはずるい。私はイドさんの手を取ると、恥ずかしいけれどもっと踏み込んだ。

「ケーキはまだいいです。今はイドさんの好きな事、してほしい……」

「オレの好きな、か。ババ抜きとか?」

「イドさん、ババ抜き好きなんですか?」

「いや、別に。冗談にそんな真面目な返しされちゃうと、オレ困っちゃうな」

「ご、ごめんなさい」

「いや、困るのも冗談だから謝らないでいいよ? あーもう、純ちゃんって擦れてなくて可愛い」

 イドさんは私を引き寄せて抱き締め、立ち上がる。

「からかうのも限界。純ちゃん、期待に応えて食べちゃっていい?」

 この場合、食べるのはケーキじゃない。いくら私だって、それくらいの違いは分かる。頷けば、イドさんは私を部屋の隣にあるトイレまで連れて行った。

「早く退院したいね。病院じゃせっかくいい雰囲気になっても、コソコソしなきゃいけないし」
 
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