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言われてみれば、単純で。
第2章 君との出会いは、偶然で。
「一個上の丹羽には気をつけろ。声をかけたら食われる」

「なにそれ」

「そういう噂ありましたよね」

このキョーちゃんの顔。懐かしい。
嫌なことを言ってやろうとしている少し悪そうな顔。でも不快にさせるものではない。そんな表情。


その噂は多分高校から大学時代の話。
俺自身もそんな噂があることは聞いていた。

俺を誘う女の一部はその噂を聞いてのことだったようだった。
ちょっと聞いたんだけど、から始まるお誘いの言葉。

別に嫌じゃないから迷惑ではなかったけど自分から誘うのはあまりなかったので心外だ。
だから過去のこととは言え彼女に訂正を求める。


「俺、別に食わないし。誘われたらそれに乗るだけ」

「私にすればどっちも一緒です」

全然違うんだけど。
キョーちゃんにとってはどちらが誘うかとかそう言うことは重要ではないようだ。

そんな話を有耶無耶にしていると彼女は店員を呼び止め、何杯目かの飲み物を注文して俺の分も頼んでいた。
次は別のにしようと思ってたのに 同じのでいいですよねって声につい うん なんて答えてしまう。

少しずつ中学時代の感覚になってきた。俺と違ってのんびりとしている彼女の空気はどうも、巻き込まれやすい。
これはいけないと、煙草を咥える。

ライターがなく探していると彼女は彼女自身が持っていたライターで俺の煙草に火をつけた。
当たり前かのような行動に誰からこんなこと教わったのかと嫉妬染みたことを思う。

その後キョーちゃんは自分の煙草にも火をつけた。
彼女の煙草独特の甘い香りが広がる。


俺は肺の奥まで煙を充分満たしてから吐き出したところで、先程の話を戻す。


「誘うか、誘われるかは全然違うんだけどね。まあどっちにしろ、結構楽しいんだよ」

「そういうのが噂の原因です。中学の頃は可愛かったのに」

「キョーちゃんは今でも可愛いよ」

「だから、そういうところが変わったって言ったんです」

「そうかなあ。ずっと可愛いと思ってたんだけど」

当時言ったこともなかった言葉。
彼女は面倒そうな顔をしてそっぽを向いた。
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