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言われてみれば、単純で。
第5章 この崩壊は、突然で。
早い時間と言えど時刻は21時。
普段から午前様の俺達にとっては随分と早い時間であるが一般的には対して早い時間とも言い難い。

「それはお互い様でしょ。俺は会社の飲み会に強制参加させられた。
 やってたプロジェクトが終わったからね。そっちは?」

「私はあの、彼の送別会」

「送別会で振られるなんて可哀想」

「好きに応えきれないのにお付き合いする方が可哀想ですよ」

「キョーちゃんは応え切れないとお付き合いしないんだ」

「まあ昔は好きと言われればお付き合いすることもありましたけど」

「悪い女だね」

「丹羽先輩程ではありませんよ」

「俺はちゃんと言葉には出してたよ。それに感情が付いていかないにしても」

「だから先輩の好きは信用できないんですよ」

パスタが茹で終わるまでの間。
リビングで煙草を吸っているとキョーちゃんがこちらにやって来た。

煙草を咥えて俺の隣に座っていきなり顔を両手で固定されたと思ったら俺の煙草を彼女の煙草に重ね合わせた。
煙草の火がじわじわと燃え移る。
所謂シガーキス。

キョーちゃんの煙草の先を見る瞳が随分と輝いて見えた。
やっぱり今日のキョーちゃんはおかしい。

「好きって、一体何なんでしょうか?」

「は?」

「丹羽先輩はどう思いますか?」

どう思うって。
素直に答えるならば、俺も分かってない。

そんなこと、言うはずもなく質問を質問で返す。

「キョーちゃんはどう思うの?」

「私は分からないです」

キョーちゃんはグラスに並々とに入ったワインを一気に飲み干した。

「私は悪いのでしょうか?」

俺が冗談で言った言葉を気にしてる様子。
そんな気にする事ではないと思っていたけれど、どうやら彼女の中では大きい言葉になってしまったようだった。


「悪くないよ、悪くない」

「だってさっき丹羽先輩が」

彼女の瞳がやけに光ってると思ったら一筋の涙が頬を伝った。
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