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言われてみれば、単純で。
第5章 この崩壊は、突然で。
「麺が最悪ですね」

「ソースは美味しいよ」

「丹羽先輩好みにしましたから」

俺好みってこのパンチのある味付けのこと?
確かに素材の味とか自然の旨味ってのがよく分からないからガッツリと味の効いたものが好きだけど。


「丹羽先輩は白黒はっきりした方が好きですよね」

「まあ、ぼやけた味は苦手かな」

「私はグレーのままがよかったんですけど、そうだろうなあって。
やっと決心したとこなんです」

料理の話? 味付けの話?
何だかそれではない気がしたけど何の話かは分からなかった。

彼女が開けたワインは6本目に突入していた。
これで最後にするからと開けたのは甘めのデザートワイン。

最初は煙草を吸いながら飲んでいたのだがテーブルの上には空になった煙草の箱。

キョーちゃんはそれをくしゃくしゃに丸めてテーブルの端に置き、次にチョコレートを手に取った。


「チョコレートは甘いから好きです」

「そうだね」

「このワインも甘くて好きです」

「そうだね」

「今日の丹羽先輩は甘いですね」

「そうかな」

「私は甘いのが好きなんです。好きという言葉の使い方、合ってますか?」

「合ってるんじゃないの?」

「そうですか」


キョーちゃんの指にはどろどろに溶けきったチョコレートが掴まれていた。

手の温度で崩れて歪な形になっている。
彼女の指の付け根辺りまで伝う、溶けたチョコレート。

それを見ながら反対の手でワインを飲んでいる。

「丹羽先輩。チョコレート、好きなんですよね」

「好きだよ」

「じゃあこれあげます」

その溶けきったチョコレートを俺の前に差し出した。それをポカンと見ているだけの俺にキョーちゃんは追撃をかけた。


「このチョコレート食べて下さい」

これは嫌がらせなのだろうか。
チョコレートをもった手を無理矢理口に詰め込まれた。

口のなかにチョコレート独特の甘みが広がった。半分溶けていたので口内の温度ですぐに存在が消えてしまった。
それが妙に儚く切ない気持ちにさせる。

チョコレートの甘さの余韻に浸っているとキョーちゃんが不満そうに此方を見ていた。


「まだ、残ってます」
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