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言われてみれば、単純で。
第5章 この崩壊は、突然で。
多分彼女の指先とそこから流れ落ちたチョコレートのことを指している。

俺は言われるがままに彼女の手首をつかんで自分の口元にそれを持っていき、チョコレートを舐め上げた。
指の1本1本。チョコレートのついてないところまで、舌先を使って舐めたあとに口の奥まで入れて甘噛みしながらそりゃあもう丁寧に。
チョコレートの味の他にも味がした。チョコレートとは違う甘さと煙草の苦さ。

「丹羽先輩は犬ですか?」

「キョーちゃんの犬にだったら喜んでなるね」

キョーちゃんに飲みすぎと何度も言っていたがどうやら俺もかなり飲んでいるようだ。


キョーちゃんは満足そうに笑うとまたワインを飲んでいた。


「丹羽先輩はあの時から、私と初めて会ったときから犬みたいでしたよ」

「そう?」

「わん。」

「それだとキョーちゃんが犬だね」

「ですね」


キョーちゃんの話が脈略のないものになってきた。

「チョコレートなくなりました」

「食べればなくなるね」

「煙草もないです」

「そうだね」

「口寂しい」

「だろう…っ」

だろうね、そう言いたかった俺の口を塞いだのはキョーちゃんの唇だった。

キョーちゃんの舌が俺の口内を犯す。
歯列をなぞり、舌を絡ませてきた。
されるが侭に時間だけが過ぎて行く。

チョコレートの甘さとキョーちゃんの飲んだデザートワインのフルーツの甘み、アルコールの苦味。
パスタのソースのトマトの酸味と少しばかりのガーリック。
あとはさっきまで俺が吸ってた煙草の煙たさと言うか苦味かなにか。
それが口の中で混ざり合っていた。

壁掛け時計の針の音と深くなっていく口付けの水音だけが頭に響いた。
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