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言われてみれば、単純で。
第6章 言われてみれば、単純で。
店主に詳しく聞こうとしたところで扉の開く音がした。
そちらを見るとキョーちゃんが息を切らして立っていた。


「おっと。あとは藤崎ちゃんから聞きな。俺ができるのは此処までだ」

店主は立ち上がってビールを一気に飲み干してキョーちゃんの元へ歩いていった。
俺にしたようにキョーちゃんの肩をぽんと叩き、何やら耳元で彼女に話しかけていた。
その後、笑って厨房へと消えていった。
キョーちゃんは少し怒ったというか戸惑った様子だった。

「お待たせしてすみません」

キョーちゃんの肩は呼吸を調えるために上下していて最初会ったときみたいに桜色の頬をしていた。


「俺が早く着きすぎただけだよ」

「すみません。お店の方にも私が来ることは伝えたのですが、
丹羽先輩来てくれるかわからなかったから言ってなかったんです」

「返信不要だったからね」

「まあ、そうですね」

キョーちゃんの目の前に彼女のいつものドリンクと限定メニューの料理が置かれた。


「大将がとりあえずこれって。
あと、頑張れって伝えとけって言ってたっす」

店員は彼女にそう言い残し奥に消えていった。
一体キョーちゃんは何を頑張るのだろうか。

話は思ったよりも弾んだ。
あの日のことは無かったかのようだった。

だからあの時はもしかしたら俺の勘違いか夢かなにかだったのかもしれないとさえ思った。

キョーちゃんが俺にすがるような人間には思えないし、あんな妖艶な姿を今のキョーちゃんからは連想出来ない。

「どうかしましたか?」

「いや、何でもないよ」

何でもなくはないけど、別に言う事ではない。

キョーちゃんは最近読んだ本の話と、先週あった高校の同窓会の話。
あとは、何を話したんだっけ?

彼女がちゃんと俺の方を見て話してたことだけはしっかり覚えているんだけれど、
どんな表情で話してたかは覚えているんだけれど内容は覚えていない。

ただ、何故あんなことになったのか、そしてこの1ヶ月間はなんだったのか其れだけが頭の中を堂々巡りしていた。


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