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言われてみれば、単純で。
第6章 言われてみれば、単純で。
「丹羽先輩、やっぱりおかしいですよ。いつもと様子が違います」

「 そりゃあ、そうだよ 」

俺は自分で思ったより大きな声を出していたようだった。
キョーちゃんはぽかんとしてた。

連絡するなと言われて1ヶ月間放置された。
それなのにそれを無かったかのようにされれば誰だってそうなる。

俺の声が厨房にも届いたのだろうか。
店主が心配そうにこちらを覗いていた。

俺はなんでもないと、伝えるように首を傾げて笑う。
彼は少し不安げな顔をしてまた奥に帰っていった。

「キョーちゃんはどう思ってるか分かんないけどさ。
俺だって、色々思うとこはあるんだからね」

「そうですか」

彼女は今日此処で会ってから初めての煙草を咥えた。
いつもの、俺とおそろいのジッポでそれに火をつける。
息の音が聞こえるほど深く吸い込んでいた。

彼女が大きく、ゆっくりと息を吐くと紫煙が天井へ舞い上がった。

ふわふわ揺れて、広がって、消えていく。

俺はただそれを見ていた。
視界の端でキョーちゃんが自分の指先を見つめていた。
少し曲がった指先。

店内にかかる音楽と、厨房から聞こえる内容までは聞き取れない店員と店主の雑談。
それだけしか、聞こえない。

随分と長く感じた。
彼女が煙草を1本吸う間、俺達は一言も言葉を交わすことなく、ただただ、お互いを見ない振りを続けていた。

「お兄ちゃん! おかわり、一緒の! 先輩の分も。その後チェックお願いします」

「おー、すぐ持ってく」

彼女が大きな声で厨房に向かってそう言うと店主の返事がすぐに聞こえた。
店主がキョーちゃんを妹と呼ぶように、キョーちゃんは店主の事をお兄ちゃんと呼んでいた。
初めて知ったけど、今はどうでもよかった。

キョーちゃんは2本目の煙草に火をつける。
俺も同様に煙草に火をつけた。

彼女はまた、自分の指先を見ている。
俺は、1秒でも早く店主か店員がここに来てこの居心地の悪い空気を壊してくれる事だけを祈っていた。

「おまたせ。藤崎ちゃん、先輩困らせちゃ駄目でしょ?」

「お兄ちゃんがお節介するから」

「はいはい。邪魔者は消えますね」

店主は当たり障りのない事だけ言ってすぐさままた奥に消える。
期待した俺が馬鹿だったよ。

また、無言の空間が出来上がる。
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