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言われてみれば、単純で。
第6章 言われてみれば、単純で。
俺は目の前に置かれた氷の入ったウイスキーを一気に飲んだ。
隣を見るとキョーちゃんもグラス一杯のワインを一気に飲み干している。

俺が煙草に火をつけると彼女は伝票を持って厨房へ向かった。
普通客が入る場所ではないだろうが、彼女は特別なのだろう。

その様子を見ていると、店主が出てきた。
今彼女の相手をしているのは店員なのだろう。

「いやー。藤崎ちゃんがごめんね。あのコ、怒っちゃったみたい」

「いえ、怒らせたのは俺ですから」

「そうじゃないんだけど、まあ、いいや。藤崎ちゃんのこと、宜しく頼むよ」

「よろしくと言われましても、俺は何も出来ないんで」

「君しかできないんだよ」

店主は意味深なことを言う。
この状況で俺しか出来ないことなんてないだろう。

キョーちゃんが厨房から出てくるとそのまま外へ向かっていった。
それを見ていると彼女が振り向く。

「丹羽先輩。ぼーっとしてないで。帰りますよ」

キョーちゃんは俺を待つ様子なんてなく、先に進んでいく。
俺は急いでジャケットを羽織り、鞄の中にある財布から壱万円札を取り出しそれを握り締めた。

「また、待ってるから。ふたりでおいで」

「キョーちゃんに、嫌われてなかったら」

店主は俺にふたりで、そう言ったが、そんな機会あるのだろうか。
今の状態の彼女を見ていると、帰ると俺を誘ったのが不思議なくらい避けられている。

店主は笑って手を振り、俺を送り出した。
申し訳ないけれど笑い返す余裕どころか、挨拶を口にする余裕も無い。
軽く会釈だけして店を出た。
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