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言われてみれば、単純で。
第6章 言われてみれば、単純で。
キョーちゃんはいつもより、歩くのが早かった。
駆け足で彼女の隣まで行く。
「キョーちゃん、これ、俺の分」
「今度は私が払うって言いましたよね。それにこれで貸し借りゼロです」
クシャクシャになってしまったお札は行き場を失った。
仕方なくジャケットの内ポケットに押し込んだ。
貸し借りゼロ。
この1年以上の付き合いをゼロにしましょう、そういう意味だろうか。
彼女が義理堅いことは前々から気付いていた。
この日だけのために、1年以上も俺と一緒に居てくれたのだろうか。
こんな事なら、キョーちゃんに会わなければ良かった。
あの日、早く帰らなければ良かった。
こうなるのなら、懐かしい記憶のままで良かった。
そうすればいつか、忘れてしまうか、諦めてしまうか、出来た気がする。
俺をこんなにも引っ掻き回しておいて、キョーちゃんは何処かへ行ってしまうのだろう。
こんなことなら会わなければ良かった。
キョーちゃんはそこに居るはずなのに。
手を伸ばせば触れることの出来る距離なのに、すごく遠く感じる。
横に並ぶ。
当たり前だった、それさえも出来ない気分だ。
随分と長い間の沈黙は俺の住むマンションの前まで続いた。
それを破ったのはキョーちゃん。
「丹羽先輩。明日の予定入ってないですよね。うちに来て下さい」
そりゃあ、入ってないよ。
此処1年以上、土曜日にはキョーちゃん以外の予定を入れてないのだから。
この1ヶ月間だってずっと空けてた。
「うん、わかった」
何となく、話は俺の思ってる、悪い方向に転びそうで返事が重い。
キョーちゃんの背中、というよりも足元だな。
それを見ながら後ろを付いて歩く。
見慣れたキョーちゃんの住むマンションの廊下も、この風景も、今日で最後になるのかな。
キョーちゃんの開けた玄関の鍵の、ガシャン、という音が廊下に響いた。
聞きなれたその音が、すごく嫌な音に感じる。
「どうぞ」
彼女がドアを押えて俺を先に入れる。
いつものことだった。最後になる、のかな。
足が重い。
足が重いって、こういうことなんだって実感。
本当に重く感じるんだ。
駆け足で彼女の隣まで行く。
「キョーちゃん、これ、俺の分」
「今度は私が払うって言いましたよね。それにこれで貸し借りゼロです」
クシャクシャになってしまったお札は行き場を失った。
仕方なくジャケットの内ポケットに押し込んだ。
貸し借りゼロ。
この1年以上の付き合いをゼロにしましょう、そういう意味だろうか。
彼女が義理堅いことは前々から気付いていた。
この日だけのために、1年以上も俺と一緒に居てくれたのだろうか。
こんな事なら、キョーちゃんに会わなければ良かった。
あの日、早く帰らなければ良かった。
こうなるのなら、懐かしい記憶のままで良かった。
そうすればいつか、忘れてしまうか、諦めてしまうか、出来た気がする。
俺をこんなにも引っ掻き回しておいて、キョーちゃんは何処かへ行ってしまうのだろう。
こんなことなら会わなければ良かった。
キョーちゃんはそこに居るはずなのに。
手を伸ばせば触れることの出来る距離なのに、すごく遠く感じる。
横に並ぶ。
当たり前だった、それさえも出来ない気分だ。
随分と長い間の沈黙は俺の住むマンションの前まで続いた。
それを破ったのはキョーちゃん。
「丹羽先輩。明日の予定入ってないですよね。うちに来て下さい」
そりゃあ、入ってないよ。
此処1年以上、土曜日にはキョーちゃん以外の予定を入れてないのだから。
この1ヶ月間だってずっと空けてた。
「うん、わかった」
何となく、話は俺の思ってる、悪い方向に転びそうで返事が重い。
キョーちゃんの背中、というよりも足元だな。
それを見ながら後ろを付いて歩く。
見慣れたキョーちゃんの住むマンションの廊下も、この風景も、今日で最後になるのかな。
キョーちゃんの開けた玄関の鍵の、ガシャン、という音が廊下に響いた。
聞きなれたその音が、すごく嫌な音に感じる。
「どうぞ」
彼女がドアを押えて俺を先に入れる。
いつものことだった。最後になる、のかな。
足が重い。
足が重いって、こういうことなんだって実感。
本当に重く感じるんだ。