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言われてみれば、単純で。
第6章 言われてみれば、単純で。
「はい。どうぞ」

「ありがとう」

少しクセのあるジャスミン茶。本当は少し苦手だった。
だけど、この場で飲まないという選択肢は俺にはない。
だって、キョーちゃんが淹れてくれたんだし、これが最後かもしれないし。
一口目、味わうことなく飲み込んだが、口の中にはこの香りが残っていた。

キョーちゃんは、ゆっくりとそれを飲んでいる。
一方俺はカップをテーブルの上に戻す。

彼女はそのカップを見て、自分のカップもその隣に置く。

「丹羽先輩。もしかして、苦手でした?」

「ちょっとね」

「無理しなくていいのに」

「あまり、かっこわるいとこは、見せたくなかったからね」

「丹羽先輩は充分かっこいいですよ」

なにそれ。今更褒めたって、どうしようもないでしょ。
キョーちゃんはどれだけ俺を傷つければ気が済むんだろう。
悪戯を続けてきた事の仕返しならば性質(タチ)が悪すぎる。

キョーちゃんは俺の方をじっと見ていた。
一瞬彼女と目が合ったがすぐに視線を外した。
だって、さよなら をいう、タイミング、探ってるんでしょ?



「変わらぬ愛」

「なに?」

「千日紅の花言葉です。

丹羽先輩。これ覚えてますか?」

彼女の部屋のローテーブルの上にクシャクシャになった茶封筒。
そして、其処から出されたのは十何年前に毎日のように見ていた、金色のボタン。
中学の卒業式の日、俺が無理矢理押し付けた制服のボタンだった。

「捨てようと思ってるのに捨てれなかったんです。
実家から出るときも、就職で引っ越したときも、なんだか捨てれなくて」

「なんで?」

「何でなんでしょうね。私も最近までわからなかったんです。
ずっと持ってたんです、十数年そのまま」

キョーちゃんはそのボタンを丁寧に一個ずつテーブルに並べていく。
その手が儚い。

なんだか、消え入りそうな手。思わず、その手に自分の手を重ねた。

もう、消えちゃうんでしょ。
だったら最後にもう一度だけ、触れさせてよ。
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