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ただ一つの一対
第11章 オマケ 奇跡の少女
 
 尊大な菊の態度には腹が立つが、則宗は怒鳴るのを我慢する。小さな蓮の眼は、ずっと則宗を捉えているのだ。その瞳を涙で濡らすのは、不本意だった。

「さあ、蓮も挨拶しなさい。このおじい様が、あなたの祖父です。きちんと挨拶すると、練習したでしょう?」

「おじーちゃんが、そふなの?」

「ええ、認めがたいですが、間違いなくおじい様です」

 すると蓮は、礼儀正しく腰を折り、則宗へ満面の笑みを向けた。

「はじめまして、いちもんじれんです! よろしくおねがいします!」

 則宗が手を掛けて育てた椿の枝を抱えながら、蓮は元気良く自己紹介する。ふと頭に過ぎるのは、もう二度と手にする事の敵わない女の姿。則宗の手から命ごと逃げたその女は、ここまで信頼しきった顔を見せた事など一度もなかった。

「……椿に、そっくりだ」

「つばきじゃないよ、れんだよ」

「ああ、分かってる。お前は……あいつとは違うな」

 則宗がしゃがみ、蓮と視線を合わせれば、好意的な目が輝く。蓮は則宗の手を握ると、引っ張り走り始めた。

「おじーちゃん、遊ぼ! おじーちゃんの家、うちより広くておもしろそう!」
 
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