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ただ一つの一対
第11章 オマケ 奇跡の少女
 
「もう新婚って年じゃねぇだろ、お前」

「気分はいつだって新婚です。いずれ本家へ戻る事も検討に入れてはおきますが、それは今ではないとお答えしましょう。今は、蓮のアルバムで我慢してください」

「ちっ……相変わらず可愛げのないガキだぜ。まあいい、今日は引き下がってやらぁ」

 危惧していた、則宗と蓮、そして菖蒲との邂逅。それは菊が思う以上の穏やかさに包まれていた。則宗が蓮を眺める際に浮かべる、遠い存在。父と自身を深い溝へ陥れたその存在が、今は血縁を繋ぐ橋渡しになっていた。

(お母様に助けられた、と言うべきなのかもしれませんね)

 兄の身代わりとして菊を生み、命を捨てても則宗から逃げた女。事実を知ったその日から、菊にとって母親は尊敬の対象ではなくなっていた。だが、その縁は切れずに繋がっている。花が落ちても、枝が折れても根を伸ばす椿のように。

「……子どもが生まれたら、椿、と名付けてもよいでしょうか」

 菊は、半ば無意識に、則宗へ訊ねていた。則宗は一瞬瞳を揺らすが、すぐに仏頂面へ戻る。

「男だったらどうすんだよ」
 
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