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ただ一つの一対
第2章 少女は夢を見る
 
 菊に負けず劣らず姿勢のいい菖蒲を見て、鼻の下を伸ばしながら道場主は立ち上がる。そして同じく見学していた道場の門下生二人を呼び寄せると、ぽろりと漏らした。

「あんなに可愛い姪っ子がいたら、ウチの娘じゃ敵わないねぇ」

 しかし審判として間に立ち、二人の構えを見れば、軽口も自然と消える。性別、体格、立場など、竹刀を合わせれば意味をなさない。そこに立つのは、剣士だった。

「はじめ!」

 菊の構えは、凪いだ海のように静かである。だが僅かな息遣いの下では、反撃の道筋が整っている。菖蒲は間合いを計りながら、息を飲んだ。

 上から、正面から、下から。ありとあらゆる手段に、隙がない。何度か打ち合いをした菖蒲は、菊の動きがある程度頭に入っている。菊が怖いのは、こちらの隙を見逃さず懐に入ってくる洞察力、そこからの応じ技だ。菊は一度剣道を止めた人間とは思えないくらい、勘が鋭かった。

 対し菖蒲は、まだ未完成の少女である。返し技を狙う菊に、躊躇いなく鍔迫り合いを仕掛ける。空気が弾けたような竹刀のぶつかる音は、心地が良い。面の下、菊は緊張状態にも関わらず、口角が上がっていた。
 
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