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ただ一つの一対
第3章 ただ一つの欠陥
 
 顔を合わせても特に利はなく、年も離れた菖蒲が菊に構ってもらえるのは、菖蒲が姪だからだ。赤の他人であれば挨拶を交わす仲にすらなれないだろうと、菖蒲は感じていた。

「だから、辛いんです。あたしは姪でなきゃ、叔父さんにとって対した価値もありません。頭だって良くないし、料理だって下手くそだし、片倉さんみたいに役に立てないし」

「片倉? あー……でもあいつは、いくら優秀でも、若の最愛にはなれないッスよ?」

 成実は両腕を前に組み、しばらく唸る。そして眉間に皺を寄せながら、心持ち小さな声で菖蒲に問い掛けた。

「これ、オレが話したって絶対言わないでくださいよ?」

「え? は、はい」

「ここだけの話ッスけど、若は、その……子どもが出来にくい体質なんスよ。組ちょ、いや、若のお父上も同じ体質なんで、遺伝なんだと思うんスけどね。まあお父上も若という跡目が生まれたんだし、可能性がまったくない訳じゃないんスよ」

 成実の告白に、菖蒲は言葉を失う。紳士的で金持ち、見た目も端正な菊が今まで独り身でいた理由が、体にあるとは思いもしなかったのだ。
 
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