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ただ一つの一対
第3章 ただ一つの欠陥
 
 一度下ろした則宗の銃口が、再び菊に向けられる。だが菊はそれを掴むと、あくまで冷徹に言い放った。

「もういいです。あなたとの話に、実を求める僕が馬鹿でした」

 踵を返し、菊は部屋を出ていく。襖を閉めた瞬間銃声が響いたが、それを無視して。そして部屋の外に待機していた片倉に、車を出すよう指示した。

 向かう先は、則宗が割り込み勝手な取引をした相手の元。頭を占めるのはもはや父への怒りではなく、ビジネスマンとしての論理だった。

 後部座席に座った菊は、心ここにあらずといった調子でタブレットを操作している。片倉はそんな菊をミラー越しに覗くと、軽い溜め息をついた。

「それにしても、若が土日に動かれるなんて珍しいですね。私はてっきり、月曜まで放置かと思っていましたよ」

「そういう訳にもいかないでしょう。今回は左月と僕で、ようやく繋いだチャンスなんですよ。それをあんな愚鈍な手で、無駄にされては困ります」

「そんなに大事なお方なら、私に命じてくだされば良かったのに。今からでも、繋げてまいりますよ?」

「いえ、結構です。向こうは大の女嫌いの上、人種差別も激しい方ですから」
 
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