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ただ一つの一対
第3章 ただ一つの欠陥
 
「ならば、邪魔な組長を消してしまえば良かったんです。組の繁栄を支えているのは、今や若の手腕です。これを大儀に、潰してしまっても……」

「片倉、口が過ぎますよ。いくら向こうが無能でも、旧態依然とした体制を好む層はまだ一定数存在しています。たとえ大儀があったとしても、まだ動く時ではありません」

 片倉はハンドルを握る手の力を強めるが、それを声には出さない。穏やかな笑みに本音を隠して、菊へ謝罪した。

「申し訳ありません。女という生き物は、どうしても口が止まらないものですから」

 すると、菊が不自然に黙り込む。機嫌を損ねたかと思いバックミラーから様子を窺ったが、怒っている様子でもない。

「若?」

 戸惑いに揺れる菊の瞳に、片倉は思わずブレーキを踏んでしまう。道路の端に車を止めると、後ろを振り向いた。

「なぜ止まるんですか、早く行きなさい」

「しかし……どこか具合でも悪いのですか? あまりお顔が優れないようですが」

「いいから、車を出しなさい」

 命じられれば、従うしかない。しぶしぶ車を発進させると、菊がぽつりと呟いた。
 
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