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愛しては、ならない
第55章 ウエデイングブーケ



そんな感じで今朝も、ついつい剛の事を考えながら林檎の皮を剥いて、指先をまた切ってしまったのだった。

本当に、いつになったら彼の事を考えなくて済むようになるのだろうか。

可愛らしいチャペルに見とれていた筈の私は、いつの間にかまた深い物思いに沈み、絆創膏を巻いた左の人差し指を見詰めていた。

すると、浅黒い太い指が私の左手を取り、後ろから逞しい腕が包み込んできた。

肩に顎を乗せられて囁かれ擽ったい。



「菊野……せっかくお洒落して結婚パーテイーなのに、指が可哀想だったね……」



悟志はまるで自分が痛いかのように顔を歪めている。

私はクスクス笑って彼の腕に手を添える。



「大丈夫だってば、このくらい。私がぼーっとしてたから悪いの」

「いや……やっぱり、僕が剥いてあげるべきだった……」



項垂れて深刻な口調で言う彼を見て、胸の中が温かくなる。

どうしてこの人はこんなにも優しいのだろう。何の取り柄もない、未だに剛を忘れる事が出来ないこんな私を――

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