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愛しては、ならない
第64章 エピローグ





その微笑みは 空に掛かる虹の様だ

遠くから見える姿は こんなに綺麗なのに

近付けば近付くほどに 霞んでいく 

この手に抱こうとしても 掴めない

あなたと愛を 作り上げたい

あなたの愛を この手に抱きたい

けれど、触れたら あなたは消える

愛したら、こわれる

愛しては、ならない









稲川が歌っているのは――俺が高校生のころ、岬夕夏の部屋で見つけたバンドスコアに載っていたバラードだった。

あの時は不覚にも涙を溢してしまったのだが、今の俺はそんな事にはならない。

あの頃より、俺は菊野の事を考える事も少なくなっているのだから――




「綾波さん……?具合でも?」




不意に後ろから声を掛けられ振り向くと、寝ぼけ眼の野村がいた。



「あ?……別に」


「そうですか……なら、いいんですけど」



野村は欠伸を噛み殺しながら背伸びをし、向こうへ行ってしまった。



「――おかしな奴だな……」



俺は何気無く目元に触れたが、涙の粒が指に落ちて驚愕する。

――泣いていた?俺は……




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