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ドアの隙間
第10章 幸せな時間
職場は以前より児童書が増え、声掛けがあれば平日でも読み聞かせをするようになった。
「奈津美さん、大人気ですね」
「エプロンの効果絶大ね」
仲間で知恵を出し合って製作したエプロンは五種類。子供達はマスコットを剥がしたり貼り付けたりして遊び、既製の玩具に負けない人気となっていた。
「ほら、みんな待ってますよ」
「緊張するわ、なかなか慣れなくて。あの子達、わぁって押し寄せてくる感じなのよ」
「大丈夫、奈津美さんの慌てぶりも面白いと思います。ふふっ」
「ふふって、由貴ちゃん」
「えへっ、ごめんなさい」
「この本にしようかな」
「え、また桃太郎ですか?」
「だめ?」
「昨日も読みませんでした?」
「慣れてるものがいいの。新しいものは緊張するでしょう?」
「そうですねぇ……あ、そうだ、今日は犬と猿とキジの声をそれぞれ変えて……」
「そんなの無理よ」
「そうですよね」
「……じゃ、行ってくる」
「ファイトです」
「あー、本の吉村さんが来たぁ」
私はいつの間にか『本の吉村さん』と呼ばれていた。駆け寄ってきた二人に早速クマとウサギのマスコットが剥がされた。
「お待ちどおさま。さぁ、読むわよ。今日のお話は桃太郎です」
小さな椅子に掛け、テーブルに絵本を広げた。
「桃太郎知ってるー」
「僕もー」
「ナナちゃんもー」
本を読み始めるとしんとなるこの瞬間が好きだ。そして見守っている親達の温かな眼差しが好きだった。
_______________
店長夫妻や由貴を交え月に一度、食事に出掛けるようになった。
「いやぁ、奈津美さんのお陰で売上が伸びて嬉しいよ。ネットの普及で書店の売り上げが減っても、子供の絵本を携帯で読むってわけにはいかないからね。本への興味をもってもらうっていう意味でも幼児向けの本をもっと大事に考えないといけない。それにあれだ、子供が本を読んでもらっている間にママさん達がが料理本や雑誌を手に取るようになってね、そっちも伸びてるんだ。まずは足を運んでもらうことなんだよ」
ビールで乾杯した後、店長が上機嫌で語りだした。
「へー、そういうことなら私に感謝して欲しいね」
「どうして」
「奈津美さん、大人気ですね」
「エプロンの効果絶大ね」
仲間で知恵を出し合って製作したエプロンは五種類。子供達はマスコットを剥がしたり貼り付けたりして遊び、既製の玩具に負けない人気となっていた。
「ほら、みんな待ってますよ」
「緊張するわ、なかなか慣れなくて。あの子達、わぁって押し寄せてくる感じなのよ」
「大丈夫、奈津美さんの慌てぶりも面白いと思います。ふふっ」
「ふふって、由貴ちゃん」
「えへっ、ごめんなさい」
「この本にしようかな」
「え、また桃太郎ですか?」
「だめ?」
「昨日も読みませんでした?」
「慣れてるものがいいの。新しいものは緊張するでしょう?」
「そうですねぇ……あ、そうだ、今日は犬と猿とキジの声をそれぞれ変えて……」
「そんなの無理よ」
「そうですよね」
「……じゃ、行ってくる」
「ファイトです」
「あー、本の吉村さんが来たぁ」
私はいつの間にか『本の吉村さん』と呼ばれていた。駆け寄ってきた二人に早速クマとウサギのマスコットが剥がされた。
「お待ちどおさま。さぁ、読むわよ。今日のお話は桃太郎です」
小さな椅子に掛け、テーブルに絵本を広げた。
「桃太郎知ってるー」
「僕もー」
「ナナちゃんもー」
本を読み始めるとしんとなるこの瞬間が好きだ。そして見守っている親達の温かな眼差しが好きだった。
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店長夫妻や由貴を交え月に一度、食事に出掛けるようになった。
「いやぁ、奈津美さんのお陰で売上が伸びて嬉しいよ。ネットの普及で書店の売り上げが減っても、子供の絵本を携帯で読むってわけにはいかないからね。本への興味をもってもらうっていう意味でも幼児向けの本をもっと大事に考えないといけない。それにあれだ、子供が本を読んでもらっている間にママさん達がが料理本や雑誌を手に取るようになってね、そっちも伸びてるんだ。まずは足を運んでもらうことなんだよ」
ビールで乾杯した後、店長が上機嫌で語りだした。
「へー、そういうことなら私に感謝して欲しいね」
「どうして」