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ドアの隙間
第10章 幸せな時間
「そりゃあそうだろう。元々私が奈津美を紹介したんだし彼女は私の妻なんだからね」

――私の妻なんだからね

店長はグラスを置き、両手を膝にのせて頭を下げた。

「はい、その通りでございます、感謝致します」

「あなた、吉村さんには頭が上がらなくなったわね、ふふっ」

その受け答えの様子から、店長夫婦の仲の良さが伝わってくる。

「いいなぁ、みんな仲良しで羨ましいー」

隣にいる由貴が肩を寄せてきた。

「あら、由貴ちゃんだって彼氏いるじゃない。仲良しでしょ?」

「でも将来どうなるかはわからないですからね」

「ホントに由貴ちゃんは冷静ね」

夫が人に私を妻だと言い、自慢してくれた。心に薄くかかっていた霧がすっきりと晴れた。
彼は後悔なんてしてない、前を向いている。私達はずっと一緒に歩いてゆける。
自分の人生を恨み、卑下した事もあった。それが今となっては懐かしい過去になった。彼との人生……出来過ぎていると思えた。

休日には観光地に出掛け、記念写真を撮った。記念の品を部屋に飾り思い出を重ねる事で、私達の後ろにはたしかな足跡が出来きてゆく。




「寒くなってきたから風邪をひかないように気をつけるんだよ」

「はい。あなたも気をつけて」

「うん、いってくる」

玄関で交わすキスは日課になっていた。

「奈津美、ありがとう」

「えっ」

「私は幸せ者だ、君のお陰だよ」

「私だって負けないぐらい幸せよ」

「ありがとう。いってくるよ」

「いってらっしゃい」

彼は額にそっとキスをくれた。
幸せ、幸せ、幸せ。幸せがすっかり板に付いた、という表現があるだろうか。あるならそれは私の事だ。

夫が私のアパートを訪れてから一年が経とうとしていた。彼はいくつもの難しい決断を下して私のもとに来てくれた。どれ程の覚悟だっただろう。それを思うと、この先ずっと幸せを感じていてほしい。
もう孤独じゃない。孤独は終わったんだ。


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