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ドアの隙間
第3章 孤独な人
暑さも一段落してきたある日、職場に電話が入った。

「奈津美、お袋が倒れて運ばれたらしい。すぐ○○病院に行ってくれ、俺もすぐに行く」

「大変、すぐ行くわ」

私は店長に事情を説明しながら帰り支度を整え、職場を飛び出した。


病院に着くと、救急処置室の前に義父が立っていた。

「お義父さん」

「あぁ奈津美さん。私も今来た所でまだ何も分からないんだ」

「大丈夫、きっと大丈夫ですよ」

「あぁ大丈夫だ……」

夫が駆け付けた時に、やっと医師の説明を聞くことが出来た。
くも膜下出血だった。庭で倒れていたのを、近所の人が見つけて救急車を呼んでくれていた。
それからの3日間、私達は同じ事しか思わなかった。
生きて戻ってきて――


だが、その願いは叶えられず、義母は帰らぬ人となった。


めまぐるしく時が過ぎる。通夜、告別式、納骨……。
何をして過ごしていたのか、何を食べていたのかわからない程、私達の心は行き場を無くし、ただ流されていた。
日常に戻っても、仕事をしている途中に涙が溢れ、慌てた店長がレジを変わってくれた。
「おかあさん」と、呼びかける相手を永遠に失ってしまった。大切な家族が3人になった。


どんなに悲しみに暮れていても、周囲は何一つ変わりはしない。それは取り残されているような疎外感もあったが、無理矢理にでも、私達を少しづつ歩き出させようとしていた。
いつの間にか3ヵ月が過ぎていった。
私は朝食を一人で作る事に慣れ、時折義母の姿を探しては、あぁ、いないんだと思い直す日々を繰り返した。

義父は……、無口になった。家では飲まなくなった。


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