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ドアの隙間
第3章 孤独な人
彼は、会社の同僚達と飲んでから帰宅する事が多くなった。飲んで帰った時に限って、締め忘れるのだろう、義父の部屋はいつも少し開いていた。

夜中に目覚め、義父の帰宅が気になって一階に下りると、灯りの漏れているそのドアの隙間から、ソファに腰掛け、肩を落とし、頭を抱えている義父が見えた。
キッチンでお茶を入れ、ドアをノックする。

「お義父さん、お茶いかがですか?」

「あぁ、ありがとう。起こしてすまないね」

落ち着いた声でそう言って、湯飲みを受け取る。

「私の事はいいから、もう寝なさい。おやすみ」

「おやすみなさい」

義父の寂しさがつらい。私ではどうにも出来ない壁がそこにある。

「ねぇ、お義父さん大丈夫かしら?」

「大丈夫だろう。前とそんなに変わってないと思うけどな。案外平気そうに見えるけど」

「そう?」

義父は以前と変わりなく穏やかで、優しい目をしていた。少なくとも、私達の前では。
いつの間にか、飲みに行った日の寝室のドアが閉じられるようになった。
私を拒否しているかのように。無力感を感じた。

あの夜、義母を熱く抱いていた男は、このまま老いてしまうのだろうか。今も私を熱くするあの光景の中にいる義父は、もう、燃え上がる事はないのだろうか。

11月も後半に入っていたある日の夕方、義父からいつものように電話が入った。

「奈津美さん、今日は久しぶりに昔の友人に会うんだよ。遅くなるから夕食はいらないよ」

「まあ、よかったですね。ゆっくり楽しんで来て下さい」

「ありがとう。そうするよ」

義父の声がいつになく弾んでいた。私も嬉しかった。明日は休みだからゆっくりしてほしい。私は久しぶりに安心して眠りについた。



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