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ドアの隙間
第11章 希望
次の日、私は石崎の車で自宅に戻った。仕事を途中で抜けて送ってくれた彼にお茶をすすめると「すぐにお暇しますから」と言って玄関に靴を履きにいく。

「お世話になってばかりで申し訳ありませんでした」

「いいんです。部長には入社してから随分お世話になってきましたから、当たり前です」

「本当にありがとうございます」

「これからの事で、分からない事や困ったことなどがありましたら、遠慮なくいつでもご連絡ください。社長からも申しつかっておりますので」

夫が遺していったものに守られているような気がする。
この家だけでなく、周りを見渡せば、悟史や店長夫妻、そこから繋がる由貴やかわいい子ども達、誠実な人柄の石崎。そして大切なお腹の子。
でも夫がいなかった。夫のいないこの家で、生きて行かなければならない。

「石崎さん」

「はい」

「夫は幸せだったと思いますか?」

「もちろんです。 奥様の事ばかり話していました。 可愛らしい人だと、自分は幸せだと。 吉村部長は、奥様が幸せでいてくれる事が、幸せなんです。それはもう、端からみてる私も羨ましく思える程で、早く結婚したいと思いましたから。ははは……」

「そうですか、ありがとうございます」

「では、そろそろ失礼致します」

一人で肩肘張るのはよそう。困ったら助けを乞おう。微笑んでいられるように。夫の為に、この子の為に。
泣きたい時も一人じゃない。でも私が悲しみに暮れたらきっと、この子と夫が悲しむ。

体調をみながら仕事を続けた。検診に行く度にお腹の子の成長に感謝し、僅かな胎動に感動して涙ぐんだ。

「重たい物は男子にやってもらいますから、いつでも言ってくださいね」

由貴がいない時にも周囲が気遣ってくれたお陰で、私は穏やかで幸せな時間を過ごす事が出来た。

「本の吉村さん、ここに赤ちゃんいるの?」

「そうよ、お腹にぶつからないでよ~」

「はーい」

母親達の思いやりの言葉やアドバイスは大きな支えになった。私はいつしか、ミカへの薄暗い思いを忘れ、自分の心を前向きに解放した。


太陽が輝きを増す7月の初め、私は女の子を出産した。

命名 望(のぞみ)


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