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ドアの隙間
第11章 希望
「部長は婚姻届が受理されなかった事に相当落ち込んでいました。 年齢的に考えても自分が先に逝く事は間違いない。自分がいなくなった後に、妻に何も遺せない、申し訳ない事をした、情けないと嘆いて、ご自分を責めていました」

「………」

「個人的な事を、なぜか私には隠さず話してくださいました。 そこで私は部長に知人の弁護士さんを紹介しました。その後、遺言書を作成して弁護士さんに預けてからは、安心したのか、いつもの吉村部長に戻ったようでした」

「………」

「私はずっと側にいて見ていましたので……、部長は奥様を、自分が先に旅立った後もずっと幸せにして差し上げたかったのだと、はっきり申し上げる事ができます」

由貴が鼻をすすっていた。 石崎の言葉には嘘偽りのない夫の真実が込められていて、胸の奥深くまで響いた。

「奈津美、親父の気持ちを受け取ってくれ」

「……本当にそれでいいの?」

「お袋が亡くなって、落ち込んでる親父を救ったのは奈津美だ。………それに……そのお腹には俺の妹か弟がいるんだろ?」

「あ……」

「親父が生きてたら、ふざけるなって言ってやりたいよ、まったく」

「へんなの」

由貴が言った。

「ははっ、ホントだな。……とにかくそういう事だから。後は石崎さん、よろしくお願いします」

悟史はそう言って出て行こうとした。

「悟史」

「ん?」

「ありがとう。それから、ごめんなさい」

「俺もおんなじ言葉を返すよ。それに、親父にはかなわない。……じゃあ」

一度浅く頷き、彼は出て行った。





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