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ドアの隙間
第3章 孤独な人
夫は昨晩から二泊分の荷物を小さなキャリーバッグに詰め込み、準備万端で朝を迎えた。

「あなた、これ、私が初めて作ったのよ」

我ながら上手く仕上がったマフラーを夫に手渡した。

「おぉ、すごいね、ありがとう。大事にするよ」

食事を始めた夫は手を休めて、マフラーを首に巻いて見せた。

「どう?」

義母と毛糸を買いに行き、一緒に選んだの色はオフホワイトだった。

「よく似合うわ。素敵よ。」

「おぉ、上手く出来たね。いいじゃないか」

義父も声をかけてくれた。

「細かいところまで見ないでくださいね。遠くから見るのがおすすめです」

「あはは、そうしよう」

「あ、そろそろ時間だ」

夫は急いで食事をすませ席を立った。そして私がコーヒーを置いて立ち上がる間もなく、「いってきます」と言って慌ただしく出て行った。

「何を急いでいるんだあいつは、いつもより早いじゃないか」

「ほんと、遠足前の子供みたいですよね、ふふっ。あ、お義父さんもマフラーした方がいいですよ、今日も寒いみたいですから」

「あぁ、そうだね」

義父は部屋に戻ってマフラーを持ってきた。

「奈津美さん。今日は6時半でいいかな?」

「はい、お義父さんの会社の前で待ってます」

「わかった。去年と同じレストランを予約したんだけど」

「はい、ありがとうございます」

「じゃあそろそろ出掛けるよ」

義父は玄関に向かい、私も後に続いた。

「あ、悟史のやつばかだな、マフラーを忘れてる」

「えぇっ?」

靴箱の上に、今日の為に仕上げたマフラーが置いてあった。

「まったく……」

「まったく誰の子どもかしら…」

「うん、親の顔が見てみたいね」

「あは、あははは…」

二人で笑い合った。

「では、6時半に」

「はい」

「いってきます」

「いってらっしゃいお義父さん」

義父は うん と頷いて家を後にした。
私は忘れられたマフラーを手に取った。
やっと仕上げたのに。
悟史のばか、風邪引いたらどうするの?
もう、知らない!

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