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ドアの隙間
第5章 女の影
クリスマスが近づいていた。

「ねぇ イブの夜なんだけど、早めにケーキを帰ってこられる?」

先に寝ていた夫が眠そうな返事をする。

「あぁ、いいよ。ケーキを買ってくるよ」

「ありがとう、約束よ。最近帰りが遅いでしょ? 私、ご馳走作るから、手伝ってくれたら助かるんだけどな」

「速攻で帰るよ」

「うん、お願いね」

クリスマスは家族で過ごす。
あの甘え声の女は思い知るだろう。浮気は浮気だと。悟史には家族がいるのだと。

「あなたはどんなプレゼントが欲しい?」

「そうだな……、勝負下着で悩殺するエロい奈津美、かな?」

「ほんとに? わかった」

「よろしく頼む」

「ふふっ、起こしてごめんなさい、おやすみ」

気に病まなくても夫は戻って来る。そう思うと嬉しかった。 母親を亡くして落ち込んでいた彼に言い寄ってきた女。そろそろ潮時だと感じたのだろう、私にあんなおねだりをしてくるなんて。

夫への後ろめたから問い正す事を躊躇していたが、黒く渦巻いていた不信感と苛立ちは薄まりつつあった。
とびきりエロいランジェリーを買いに行こう。彼が浮気を精算して戻ってきたら、心の中で許せばいい。

――悟史に抱かれたら私の所へ来なさい

……まさか、イブの夜……

「奈津美」

「……なあに?」

「最近、変わったね」

「えっ?」

「やけに色っぽくなった」

「あら、急にどうしたの?」

「ずっとそんなだったっけ?」

「あはは、あなたが無関心だったのよ」

「……そうか」

「そうよ、ふふっ、でもありがとう。おやすみなさい」

着信音が聴こえた。

「ねぇ、メールよ」

「あ、うん」

「おやすみなさい。明かり消してね」

「うん、おやすみ」

夫はメールを確認していたが、返信する様子はない。その後、私は二度の着信音に起こされたが、夫が目を覚ますことはなかった。

――やけに色っぽくなった

職場で静香にも言われた言葉だ。義父のせいだ。周りに気付かれる程、いったいどこが変わったのだろう。
私は義父の部屋で凌辱された夜を思い出し、火照る身体を持て余した。
夫は平和な顔で寝息を立てている。その隣でショーツに手を忍ばせる。夫と義父、二人に弄ばれる自分を思い描き、淫らな妄想の闇に溶けていった。


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