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ドアの隙間
第6章 長い夜。
「奈津美ちゃんは早上がりか。今夜はご馳走を作るのかな?」

事務所で店長が話しかけてきた。その薄笑いに虫酸が走る。

「えぇ、クリスマスですから」

「いいねぇ。ウチは何にもしてくれなくてね」

「食事に誘ってみたらどうですか? まだいますよ彼女」

静香の事を匂わせた。

「あぁ、彼女ね。クリスマスは家で子供と過ごすだろうし……」

「そうですか、残念ですね。急ぐのでお先に失礼します」

「あぁ、お疲れさま」

何か言いたげな顔を無視して外に出た。早く帰って夕食を作らなければ。
昨日から浸けておいたローストチキン。奮発して買ったステーキにワイン。夫の好きなリンゴ入りのポテトサラダとトマトサラダ。卵とほうれん草のココット。義父の好物の鯛のカルパッチョ。義母直伝の煮しめにあとはアスパラベーコンに……あ、シャンパンを買って帰ろう。

私は四時半に帰宅し、鼻歌を歌いながら家事をこなした。クリスマスリースとポインセチアを玄関に飾り、テーブルクロスも新しくした。

ランジェリー専門店で選んだベビードールとガーターベルトは、店員おすすめの外国製だ。
義父へのプレゼントは手帳と万年筆。それに暖かな手袋。 義母が毎年プレゼントしていた手帳は、今年から私が贈ることに決めていた。

義父に恋心を抱きながら、夫を手放したくはない。何一つ失いたくなかった。それが如何わしい関係だとわかっていても。

「ただいま」

「お帰りなさい。……お義父さん、その荷物どうしたんですか?」

義父は、両手に大きな包みを抱えて帰ってきた。

「クリスマスプレゼントだよ」

「中身は?」

「開けてごらん、あぁ、疲れた」

「お疲れ様です」と笑顔を向け、下ろした包みのひとつを開けた。

「まあ、クッション。 あら、こっちも……お義父さん、五個も買ってきちゃったんですか?」

「五個売りだったんだよ。電車の中で大変だった。みんなの邪魔になってね」

焦った様子が目に浮かぶ。

「それは大変でしたね。さっそくソファに……」

私はリビングのソファにそれを並べながら、包みを両手にぶら下げて歩く義父を想い、なぜか胸が熱くなった。
大切な人…

「まぁとっても素敵。部屋が明るくなりました。ありがとうございます」
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