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ドアの隙間
第6章 長い夜。
「これは奈津美さんに。」

「えっ?」

プレゼント用に包装された包みを開けると、ふわふわの室内用スリッパが出てきた。

「わぁ、あったかそう」

「うん、足元が冷えると思って」

「わざわざ包装してもらったんですか?リボンもつけて?」

「うん、先にそれを選んでたら、近くにあったクッションも買ってしまった」

「ふふっ、凄くあったかい……ありがとうございます」

「いや、感謝するのは私の方だよ。家の事を任せっきりで。もっと気の効いたものがよかったんけど、何がいいのかわからなかった。次はもっといいものにするよ」

「そんな、いいんです。踏んづけるのがもったいないぐらい嬉しいです」

「好きなだけ踏んづけてくれ」

「はい」

義父はまるで、親の様に私を安心させてくれる。足元はもちろん、心の中まで暖かくなった。

テーブルに並んだ料理を眺め「豪華だねぇ、旨そうだ」と言い、義父は着替える為に寝室に入っていった。

そろそろ夫が帰宅する時間だ。ローストチキンをグリルに入れてタイマーをセットすると、メールの着信音が鳴った。

――ごめん。遅くなりそうなんだ。俺を待たずに食事始めていいから
本当にごめん

夫からだった。急な仕事が入ったのだろうか、それとも……。私はソファーに座り込み、クッションを抱いて途方にくれていた。

「奈津美さん、どうした」

義父が部屋着に着替えてきた。

「……悟史さん遅くなるみたいです。先に食事してって……」

「えっ? まだ仕事が終わらないのか」

「たぶん…」

「しょうがないな……」

「……ケーキがないわ」

「うむ、ケーキは後回しでいいよ。仕方がない、先に乾杯しようか。いい匂いがしてきてお腹がすいたよ、ローストチキンかな?」

「えっ?あ、そうです。じゃあ、二人で乾杯しちゃいましょう」

私達はワインで乾杯した。義父にプレゼントを渡すと、さっそく万年筆の書き味を試して大袈裟に喜んでくれた。料理の腕が上がったと私を褒め、煮しめは義母と同じ味だと懐かしがった。
それもこれも、心ここにあらずの私を気遣っての事だとわかっていたが、私は嫌な予感がして落ち着かなかった。

悟史、早く帰ってきて
早く帰ってきて私を安心させて……

「あいつ遅いな…」

十時半を過ぎていた。

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