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ドアの隙間
第6章 長い夜。
アイツだ、私が酔い潰れている間に……

義父が私を静かに問いつめる。

「靴はどこに置いてきた。駅で会った時の顔だって普通じゃなかった。酒の匂いもしたよ、いったい何があったんだ」

気遣う視線の中に、疑いの色が浮かんでいた。

「……なにも」

義父に知られたくなかった。他の男とホテルにいたなんて。気を付けるように言われていたのに……

「ヤツに何をされた」

「え……」

ヤツとは誰のことなのかわからず、私は疑念の色が濃くなっていく義父の目に震えた。

「あのバーから店長と一緒に出ていっただろう? バーテンに聞いた」

「……っ、行ったんですか?」

「そこら中を手当たり次第に探したからね」

「……心配掛けてごめんなさい」

「何をされたんだ」

「……送るって言われて……、でも、いきなりここにキスをしてきたので、大事な所を思い切り蹴って必死に逃げました。その時に靴が脱げたんです」

「本当に?」

「本当です」

私は義父に言い訳しながら実際にそう信じ、まっすぐに義父の目を見た。

「アイツ、殴るだけじゃすまない……」

「も、もう二度と会いません、私すぐに仕事辞めますから」

義父の怒りを前に私は怯え、抱き締めてくる力強い腕に義父の嫉妬を感じた。靴のない私を背負い、ケーキを買い、笑わせ、何も言わずに寝ようとした彼は、義父としての立場を守っていたのか。

「奈津美さん……」

悲しげな目で私の唇をそっと塞ぐと、ベッドに横たえ、頬にそっと手をあててきた。

「私のせいなのか」

「え?」

「奈津美さんが一人で飲みに行くなんてこと、今までなかったよ」

「……」

「悟史と何かあったのか……」

「なにもありません。ただ、一人になりたかったんです」

「……すまない。私のせいなんだね」

「……」

目尻から落ちる涙の粒を、義父が指で何度も拭う。
なぜこんなことになってしまったのか。

「お、お義父さんのせい、お義父さんのせいで辛い……」

義父の胸に顔を埋め、すべてを彼のせいにして泣いた。愛しい人に背中を擦られ、額への慰めのキスを受ける幸せ。何ものにも代えがたい温もりに抱かれながら、私は気持ちを固めていった。

彼は慈しむような愛撫で私を導き、深い海の中に漂わせる。私は無数の泡となって立ち昇り、声を押し殺して幾度も弾けた。




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