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ドアの隙間
第7章 見えてきたもの
「奈津美さん、仕事はゆっくり探すといいよ。私も知り合いに頼んでみるからね」

「ありがとうございます」

「じゃあ、いってくるよ」

「いってらっしゃい、お義父さん」

義父を送り出してすぐ、メールの着信音が鳴った。

――今夜話し合おう

悟史からだった。私は返信せずに、出掛ける支度をした。今朝書き上げた辞表をバッグに入れ、よし、と気合いを入れる。これを店長に叩き付ければもう二度と会うこともない。
仕事を探さなければならなかったが、年末近くで求人は少なく、年が明けてから動き出すしかなさそうだった。



職場に着くと、私はすぐに事務所のドアを開けた。

「おはようございます」

出勤してきたばかりの店長が驚いた様子で振り返った。

「奈津美ちゃん」

「これ、お願いします。お世話になりました」

辞表を店長の机の上にすっと差し出した。

「ちょ、ちょっと待って」

「失礼します」

「謝りたいんだ」

「謝る?」

「謝罪したい」

「それで、自分だけ楽になるつもりですか?」

「そんな事は…」

「謝罪はいりません。もう二度と会いたくありません。失礼します」

ドアを閉じる一瞬、ふと目をやると、うなだれたさえない男が一人、ぼんやりと立っていた。

「あら、おはよう」

更衣室の前で静香と笑顔ですれ違う。

「おはよう」

「どこへ行くの?」

「辞めたの」

「えぇっ?」

「お世話になりました。みんなによろしくね。それじゃ」

「ちょ、ちょっと待ってよ」

理由を聞きたがる静香を適当にあしらい、私は職場を後にした。私の事なんて、みんなに忘れてほしかった。この街は、もう私の街ではなくなる。そんな事を思っていた。

私はその足で、役所へ離婚届けの用紙を取りに行った。住民票等の受け取り窓口の片隅、誰もが簡単に入手できる場所にその紙は置かれていた。
並んで歩く事に疲れ果てた二人が、その意志を示すために、最後に名を連ねる紙きれ。
疲れ果てる前に、終わらせたい。


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