この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ドアの隙間
第7章 見えてきたもの
「奈津美さん、仕事はゆっくり探すといいよ。私も知り合いに頼んでみるからね」
「ありがとうございます」
「じゃあ、いってくるよ」
「いってらっしゃい、お義父さん」
義父を送り出してすぐ、メールの着信音が鳴った。
――今夜話し合おう
悟史からだった。私は返信せずに、出掛ける支度をした。今朝書き上げた辞表をバッグに入れ、よし、と気合いを入れる。これを店長に叩き付ければもう二度と会うこともない。
仕事を探さなければならなかったが、年末近くで求人は少なく、年が明けてから動き出すしかなさそうだった。
職場に着くと、私はすぐに事務所のドアを開けた。
「おはようございます」
出勤してきたばかりの店長が驚いた様子で振り返った。
「奈津美ちゃん」
「これ、お願いします。お世話になりました」
辞表を店長の机の上にすっと差し出した。
「ちょ、ちょっと待って」
「失礼します」
「謝りたいんだ」
「謝る?」
「謝罪したい」
「それで、自分だけ楽になるつもりですか?」
「そんな事は…」
「謝罪はいりません。もう二度と会いたくありません。失礼します」
ドアを閉じる一瞬、ふと目をやると、うなだれたさえない男が一人、ぼんやりと立っていた。
「あら、おはよう」
更衣室の前で静香と笑顔ですれ違う。
「おはよう」
「どこへ行くの?」
「辞めたの」
「えぇっ?」
「お世話になりました。みんなによろしくね。それじゃ」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
理由を聞きたがる静香を適当にあしらい、私は職場を後にした。私の事なんて、みんなに忘れてほしかった。この街は、もう私の街ではなくなる。そんな事を思っていた。
私はその足で、役所へ離婚届けの用紙を取りに行った。住民票等の受け取り窓口の片隅、誰もが簡単に入手できる場所にその紙は置かれていた。
並んで歩く事に疲れ果てた二人が、その意志を示すために、最後に名を連ねる紙きれ。
疲れ果てる前に、終わらせたい。
「ありがとうございます」
「じゃあ、いってくるよ」
「いってらっしゃい、お義父さん」
義父を送り出してすぐ、メールの着信音が鳴った。
――今夜話し合おう
悟史からだった。私は返信せずに、出掛ける支度をした。今朝書き上げた辞表をバッグに入れ、よし、と気合いを入れる。これを店長に叩き付ければもう二度と会うこともない。
仕事を探さなければならなかったが、年末近くで求人は少なく、年が明けてから動き出すしかなさそうだった。
職場に着くと、私はすぐに事務所のドアを開けた。
「おはようございます」
出勤してきたばかりの店長が驚いた様子で振り返った。
「奈津美ちゃん」
「これ、お願いします。お世話になりました」
辞表を店長の机の上にすっと差し出した。
「ちょ、ちょっと待って」
「失礼します」
「謝りたいんだ」
「謝る?」
「謝罪したい」
「それで、自分だけ楽になるつもりですか?」
「そんな事は…」
「謝罪はいりません。もう二度と会いたくありません。失礼します」
ドアを閉じる一瞬、ふと目をやると、うなだれたさえない男が一人、ぼんやりと立っていた。
「あら、おはよう」
更衣室の前で静香と笑顔ですれ違う。
「おはよう」
「どこへ行くの?」
「辞めたの」
「えぇっ?」
「お世話になりました。みんなによろしくね。それじゃ」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
理由を聞きたがる静香を適当にあしらい、私は職場を後にした。私の事なんて、みんなに忘れてほしかった。この街は、もう私の街ではなくなる。そんな事を思っていた。
私はその足で、役所へ離婚届けの用紙を取りに行った。住民票等の受け取り窓口の片隅、誰もが簡単に入手できる場所にその紙は置かれていた。
並んで歩く事に疲れ果てた二人が、その意志を示すために、最後に名を連ねる紙きれ。
疲れ果てる前に、終わらせたい。