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ドアの隙間
第7章 見えてきたもの
書店に立ち寄った帰り、私は喫茶店でコーヒーを飲みながら、窓の外を眺めた。忙しげに、また楽しげに行き交う人波を見ていると、自分一人が取り残されているような気がしてくる。それが不幸せというわけではなく、今までが幸せすぎただけなのだ。浮き足立ち、罪に身を任せていた自分に罰が下る。
そう思うと、今夜、悟史と話し合う時には冷静でいられる気がした。

駅前から自宅に向かって歩いていると、両手にフルーツの入った袋をぶら下げた男に声をかけられた。

「こんにちは」

どこかで会った顔だが思い出せない。

「昨夜は大丈夫でしたか? あの店長さん、ちゃんと送ってくれましたか?」

あのバーのバーデンダーだった。

「あぁ、失礼しました。私服だと思い出せなくて。はい、ちゃんと送ってもらいました」

「いやぁ、よかった。あの後あなたを捜しにみえたあの方は、ええと…」

「義理の父です」

「あぁ、そうだったんですか。私が事情を説明しましたら、突然血相を変えて怒鳴られまして…」

「えっ?」

「いえ、いいんです。直ぐに出て行かれました。よほどご心配だったんでしょう」

「義父が、怒鳴ったんですか?」

「えぇ、バカ野郎っ!って。いつも落ち着いてお酒を楽しまれている方なので、えらい事になったと私も心配になってしまって」

「申し訳ありません」

「いいんです、とにかく無事でよかった。では、失礼します」

胸が痛かった。義父がどんな気持ちで私を捜していたのか。けれどもう、その胸にすがる事は出来ない。



家の片付けや夕食の準備を済ませ、義父の帰宅を待った。永遠だと思っていた生活が終わろうとしている。この家の匂い、階段の軋む音、庭木に寄る鳥達。いつか懐かしく感じる時が来るのだろうか。実感がわかない私は、ソファに座り、クッションを抱いてじっとしていた。

「ただいま」

「おかえりなさい」

義父が帰宅して部屋で着替えている時、悟史が帰ってきた。

「ただいま」

「……お帰りなさい」

迎えに出た私は、伏せ目がちな悟史を見つめた。そして、その後ろに立つ、緊張した面持ちの女性を見つけた。関口ミカだった。

「あの、奈津美……」

なぜだろう、夫の情けない顔を前に笑い出してしまいそうだ。

「突然お邪魔して申し訳ありません」

ミカが頭を下げた。


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