この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ドアの隙間
第7章 見えてきたもの
靴を履いて振り返った。
「お義父さん」
「ん?」
「いつまで巻いているんですか、そのマフラー」
「ずっとだ」
「首が閉まっちゃいますよ」
「いいさ」
「変なお義父さん」
「ふふっ、そうか?」
「あの……心付け、ありがとうございました」
「いや、何もしてやれないから」
「私……いい嫁ではなかったですね」
「あぁ、まったくだ、恋をしてしまったからね」
「マフラーの巻き方、変ですよ」
「そうか?」
私は背伸びをして義父のマフラーを巻き直した。
「……ありがとう」
笑顔を交わした。
「いつでも連絡しておいで。すぐに飛んで行く」
「ありがとうございます、それじゃ」
「奈津美さん……」
義父がまた、両手を握ってくれた。
「とても幸せでした」
私は義父を見つめながらドアを開け、笑顔をつくってドアを閉じた。さよならが言えなかった。
引っ越しのトラックを見送り、通りに出て振り返った。もう、泣いてもいいだろうか。私の愛した家、大好きな人。
さようなら。
涙が溢れ、嗚咽した。
私を慰めてくれる温かい胸が恋しい。 手を繋いで歩き、おぶってくれた優しさが恋しい。泣く時は一人じゃなかった。 いつも義父がいてくれた。
「お義父さん……」
この身に馴染んだ町並みが滲んでよく見えない。コンビニも喫茶店もスーパーも、みんなさよなら。
駅前のざわめきが私を隠した。いつもの切符売り場で、新しい街への片道切符を買った。携帯を新しくして番号を変えよう。そうすれば、義父からの連絡を期待しなくてすむ。立ち止まらない、振り向かないように生きていく。
誰にも甘えられなかった幼い頃の自分に戻るだけだ。でも、この手の温もりは消えない。永遠に、私を温めてくれるだろう。
「お義父さん」
「ん?」
「いつまで巻いているんですか、そのマフラー」
「ずっとだ」
「首が閉まっちゃいますよ」
「いいさ」
「変なお義父さん」
「ふふっ、そうか?」
「あの……心付け、ありがとうございました」
「いや、何もしてやれないから」
「私……いい嫁ではなかったですね」
「あぁ、まったくだ、恋をしてしまったからね」
「マフラーの巻き方、変ですよ」
「そうか?」
私は背伸びをして義父のマフラーを巻き直した。
「……ありがとう」
笑顔を交わした。
「いつでも連絡しておいで。すぐに飛んで行く」
「ありがとうございます、それじゃ」
「奈津美さん……」
義父がまた、両手を握ってくれた。
「とても幸せでした」
私は義父を見つめながらドアを開け、笑顔をつくってドアを閉じた。さよならが言えなかった。
引っ越しのトラックを見送り、通りに出て振り返った。もう、泣いてもいいだろうか。私の愛した家、大好きな人。
さようなら。
涙が溢れ、嗚咽した。
私を慰めてくれる温かい胸が恋しい。 手を繋いで歩き、おぶってくれた優しさが恋しい。泣く時は一人じゃなかった。 いつも義父がいてくれた。
「お義父さん……」
この身に馴染んだ町並みが滲んでよく見えない。コンビニも喫茶店もスーパーも、みんなさよなら。
駅前のざわめきが私を隠した。いつもの切符売り場で、新しい街への片道切符を買った。携帯を新しくして番号を変えよう。そうすれば、義父からの連絡を期待しなくてすむ。立ち止まらない、振り向かないように生きていく。
誰にも甘えられなかった幼い頃の自分に戻るだけだ。でも、この手の温もりは消えない。永遠に、私を温めてくれるだろう。