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私は犬
第16章 人並みになりたい*
「あーっ。アレだ。恋人…と…いうか……結…婚と…いうか…。」

「はあ??」

思い出した。はっきり思い出したっ!音羽さんに、絶対に言わなければならない事があったんだ。あの日鏡の前で、これを言うために練習したのよ。2時間もっ!。手元の飲み物をグイッと空にして、勢い良く立ち上がってから、

「私っ、あなたとは2度とセックス致しませんわっ!よろしくて?」

と、自分の決意を宣言した。良かった…。練習した通りにきちんと言えたわ。チラリと窓硝子を見やって、ぼんやりと写し出されたポーズを確認する。ウエストに両手もちゃんとあたってるわ。大丈夫。とても偉そうよ。98点くらいね。

「とりあえず、今は座りなさい…。」

カラカラと、私が飲み干した空のグラスに飲み物を作り、かき混ぜながら、嫌になるほど冷静な口調で、音羽さんがそう言うから。

ものすごーく居心地が悪くなって。仕方なく座ってみた。

「問題をまとめよう。」

そう言って、音羽さんがテーブルの上で両手を組む。

「問題?」あら?このお酒、とても薄いわ?何でかしら?

「ねぇ、お酒もっと入れて。」

「もうあげません。大人しく話を聞きなさい。最後まで座っていられたら、その件について話を聞こう。」

ちぇっ…。口から唾吐きたい。あの顔目掛けて、ブーッってやりたい。そうね、3回くらい。

「私とはセックスしないと言ったが。では誰とする?」

「誰ともしないわ。あんな事、1度でたくさん。人並みにもう済ませたから大丈夫よ。」

「その考えでは、とうてい結婚は出来ない。それでは自分が困るのでは?」

「しないもの。私、結婚も恋人もいらないもの。」
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