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私は犬
第17章 契約
ウォームアップウェアと、中のTシャツを脱いでシニヨンを解く。剛ちゃんは、これの事を「合羽素材のオールインワンみたいで可愛いわ。サロペット形なのね。」と言っていたけれど。河童が全部一緒の作業着になるなんて変だと思うの。

シャワーを浴びて、隣接するパウダールームの鏡の前で髪型と闘っていると、後ろの扉が空いて音羽さんがやって来るのが見えた。そして、

「貸してみろ。」

と言って、私の手からブラシを取り上げ、剛ちゃんがするように私の髪をいじり始めた。

「上手ね。会社員じゃなくてスタイリストにでもなれば?」

「子供の頃、妹の髪を…。いつもこうやって。さすがにカットは無理だ。」

目の前の鏡の中の音羽さんが、少し寂しそうにそう言うから。とっさに、女子会での噂話を思い出してしまった。そうだった。この人も、ご家族を………。ああ。私、意地悪を言ってしまったかしら?

「はい。出来た。ほら、さっさと着替えろ。」

「ありがとう…。」

こういう時は、何て言葉をかけるべきなの?私も家族が居ないのよ?それは不味いわ…。本人から教えて頂いた訳ではないもの。

両親を亡くしてから、私はどんな言葉が辛かったっけ?どんな言葉が嬉しかった?

「私も、貴方みたいなお兄さまが欲しかったわ。」

無理矢理、言葉を選んでみたけれど、きっとこれは正解じゃないわね…。あなたを癒す魔法の言葉を知らなくて、ごめんなさい…。

「ほら、服はどれを着るんだ?」

やっぱり、さっきの「ごめんなさい」は取り消すわっ!クローゼットの中にまで着いて来ないでよっ!
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