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私は犬
第25章 罪には罰を*
「最近は会社が残業に煩いから、そういう姿を見なくなったけど。この7年、彼を側でずっと見て来た。」

そう語る鮎川さんの目は、とても真剣で。彼女の知らない秘密の契約の事が、なんだか申し訳なく思えてしまう。私、こんなに真っ直ぐに有史さんを想ってなんかいない…。

「鮎川さんは、主任の事が好きなんですね?」

気が付けば、そんな言葉が口から出ていた。

「ええ。」

と、何の躊躇いもなく短く言い切る鮎川さんを、少しだけ羨ましいと思った。

さっさと、残り40回を終らせて、契約を満了させよう。鮎川さんのような気持ちで、他にもたくさんの女性が有史さんを想っているのだろうから。いくら契約とはいえ、自分のしている事は。彼女達が真摯に懐く気持ちへの冒涜かもしれない…。

そんな風に思えてならない。せめて彼女達に負けない位の強い気持ちがなければ、有史さんの側に居るわけにはいかないと思う。

「お茶、お代わりもらう?」

目の前の鮎川さんに、そう言われて我にかえる。温かいお茶を頂いて、他愛もない雑談をして、ホテルの前で別れた。

こんな事、知らなきゃ良かった…。
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