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私は犬
第30章 主導権*
うん。天才だね…。この顔、酔った時みたいだよ…。

「そのイガリメイク、流行ってんのよ。だから落としちゃ駄目よ。」

はいはい…。イガリね…。酔っぱらいじゃないのね…。

髪型は、緩く編み込んだローシニヨンのアレンジ。これなら邪魔じゃない。お洋服も、紺のブラウスに、ゆったりめのベージュのパンツだから、多分そんなに派手じゃない。鏡で最終チェックを済ませて、中田さん達に見送られながら、執務室を後にした。

一般のエレベーターを待っていると、人の視線を感じる。特に眼鏡を外してから、ジロジロと見られるようになった。あまり良い気持ちはしない…。

後、知らない人が用事も無いのに声を掛けてくるようになった。

『デカイね。身長何センチ?』は挨拶なのだろうか?類似語に『九宝って専務の親戚?』もある。あなたは何センチ?と聞いて返すべきか。とても悩む…。

無事、営業部のフロアに辿り着いた。誰にも話しかけられずに済んで、良かったと思う。

自分の席に向かうと、真っ直ぐヘアの鮎川さんの姿が目に入った…。そういえば、有史さんは昨日から出張だったっけ。何も起こりませんように…。

「九宝さん、遅かったわね、待っていたの。」

ああ…。鮎川さんイライラしてる。ちょっと怖い…。
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