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私は犬
第32章 我慢の限界*
フレディ・マーキュリーって、レマン湖に撒骨して、ほとりに銅像まで建ってんのに、有名なレマン湖の歌を歌ったのは別の人達なの?それ、微妙にイケてないんじゃない?私的に、レマン湖の七不思議だわ…。白鳥の凶暴さといい勝負よ…。

「剛ちゃん、私、寄りたいところがあるから、そっちを済ませてくる。一時間、休んでいて。じゃあね。」

横田さんに送って頂いて、車で15分程の山の上の老人ホームに辿り着いた。受付を済ませて個室へ入る。

昔はさぞ美しかったであろう、色が抜け落ちた金髪を、顔の片側に三つ編みにして垂らして、エンデ夫人はベッドで静かに眠っていた。

「こんにちは。エンデのお婆ちゃん。わかる?真子よ。スイスに帰って来たの…。」

昔ながらの呼び方で、言葉をかけてみても返事は無かった。そっと手を握ると、とても柔らかくて温かい。

ほんの数ヶ月前は、この手で頭を撫でてくれた。1年前は、甘いお菓子を焼いて食べさせてくれた。その唇で、Maccoと私の名を呼んでくれていたのに…。どうして今は何も言ってくれないのだろう…。お婆ちゃんまで、このまま居なくなっちゃうの?

『私はこの辺で一番の美人だったんだ。なのに爺さんに騙されちまった!』

そう、カラカラと笑いながら文句を言う、エンデのお婆ちゃんの顔や声が、頭の中で甦る。
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