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私は犬
第33章 さよなら
私の心中を見透したかのように、春木さんが英語の小声でそう呟いた。『選びますから』という事は、私は芸術に選んで貰えたのかもしれない…。なんて光栄なんでしょう。

「お席に参りましょう。」

そう春木さんに促されて、歩みを進めた。ボックス席に腰を落ち着けて開幕を待つ。今日の演目はドボルザークのルサルカ。簡単に説明すると、湖版の人魚姫みたいな感じ。前にプラハで観た時は、儚さと美しさに感動した…。今回もきっと…。

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「斬新だったわねぇ。前に観た時みたいな鳥肌は立たなかったけど、ミュージカルみたいで楽しめたわ。」

剛ちゃんはそう言って、スタスタ歩き出した。私も歩かなきゃ、後ろに控えた春木さんが、私が動き出すのを待っている。お待たせしてはいけないわ…。

終幕まで良く耐えたと思う。度肝を抜く斬新な演出、奇抜な衣装、煩いだけの音楽、原作から離れた奇想天外なストーリー。全てが、私の予想の遥か上空を勢い良く飛行していた…。なんだろう、心が砕かれたようなこの喪失感…。

『なかなか楽しかったね。まさか紙吹雪が降ってくるなんて思わなかった〜。』

途中、さっきの日本人観光客の2人組が、そう交わす会話の横を通り抜けながら思った。

彼女達は、この作品に選ばれたんだわ。私は選ばれなかったけれど…。

おば様、事件です。ブリュッセルのオペラ、斬新すぎました…。
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