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禁断の果実に口づけを
第16章 砂の城
 
 ホテルの一室で逢瀬の時間を楽しんだ優美子と理一。
その後は銀座に繰り出し、鴨料理を堪能した。
赤ワインで乾杯をし、互いに見つめ合う二人。

 「明日からは少しの間は会えなくなるのね」

 「仕方ないです。
そんな時間は今だけです。
年が明けて例の事が明るみになった際には、暫くは忙しくなりますが、その後はこの様な時間が当たり前の様にやって来ます」

 「その日が来るまでの我慢ですね」

 「はい。楽しみです」

 鴨のローストをソースに絡めて上品に口元に運ぶ優美子。

 『育ちなのだろうな。
食事をするにしても、優美子は煌びやかさを兼ね備え、見る側をうっとりとさせてしまう魅力がある。
さっきまで長い髪を振り乱し、セックスに夢中になっていた女が、髪を束ねて清楚なに装いで、今、目の前に座っている。
高嶺の花で手が届かないと思っていた女がもうすぐこの手に入る。
しかも、揺るぎない権力や莫大な財力も一緒に……』

 「僕はね、優美子さん。
欲しいものは必ず手に入れたい欲深い男なんですよ。
鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギスタイプかもしれません。
その点、社長は信長ほど冷酷ではない。
天運に任せて登りつめた秀吉みたいな方です。
自分でも言ってましたよ。
鳴かぬなら鳴かせてみようホトトギスタイプだと。
でも、いずれ滅びてしまうんですよ。
最後に天下をとるのは、その時をじっくり待つ人間なのかもしれませんよ?」

 「頼もしいわ。理一さん」

 ワイングラス越しに微笑む優美子は、心に潜むいやらしい悪女の顔が浮かび上がっていた。

 同じものを見る瞳はそれを気づかせない。

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