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禁断遊戯~背徳と罪悪の狭間(はざま)で~
第4章 記憶


 口の中に何かを押し込まれて、助けを求め、泣き叫ぶ私の声は暗闇に消える。
 荒い呼吸音だけが辺りに響いて、体中に激痛が走る――――そんな過去の記憶に引き戻された私は、恐怖のあまり、その場にしゃがみこんでしまった。


「ちぃちゃん! どうしたの? 少し落ち着いて……大丈夫」


 その声が聞こえた瞬間、ふわっと香る柑橘系の香りが嗅覚を擽り、私を過去から現実へと引き戻す。


「! だ、だいじょう、ぶ。ごめん、ね……」


 今、自分が置かれた状況を把握した私は、未だ震える声で謝罪の言葉を向けた。
 大丈夫――と、言ったところで、私の体と声は震え続ける。


「声が震えてる……何かあったの?」
「な、なにも……ないから。本当に、ごめんね……」
「……大丈夫と言われても。もしかして、俺のせい……?」
「ち、ちがうっ! 柊斗くんは、関係ないの……だから、気にしないで。ね?」


 彼が悪いわけでないから、自分のせいだと思っている彼の言葉に、大きく首を横に振る。
 彼の腕の中で、不覚にも安堵してしまった私は、それとなく離れようと試みた。


「……俺じゃないって、証拠は?」


――証拠と言われても……そんなの、ある訳がない。
 あるとすれば…………だけど、そんな事、言えない。


 彼の言う証拠――思い当たる節はあった。
 けれども、今ここで……というのは、言えるものではない。
 だから、話をすり替えた。


「……本当に、大丈夫だから。あ、の……家まで送ってくれるかな? なんか、腰が抜けちゃって……」


 あの時の事を知っているのは、悠と直人だけ。
 自分の過去を話すのは、好きではないし、別に話す必要はないと思っていた。


「……いいよ、送って行く。ほら、立てる?」
「え、あ……ありがと、う……っ」


 夕方の六時を過ぎれば、外気温も下がって、肌寒い。
 それに輪をかけて、過去を思い出してしまった私の体は、冷え切っていた。


「手、冷たい……。こうしてれば、家に着くまで温まるかな?」
「し、柊斗……くんっ!」
「いいから、黙って」
「…………」


 冷えた私の指先を温めるように、彼の指が絡まる。
 頭ではわかっていても、自分の手の状態が、ある時と酷似している事に、頬が熱くなった。

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